今回お越しいただいたのは、株式会社和える 代表取締役の矢島里佳さん。
(矢島里佳さん オフィシャルブログより http://ameblo.jp/nadeshiko-rika/) |
今回、矢島さんをお招きし、お伺いしたかったこと。
・なぜ和えるが始まったのか
・和えるをやるうえでのこだわりとむずかしさ
・これからの日本のものづくり
日本の伝統産業(←和えるでは伝統工芸とは呼ばない!)を子供たちに届けるという仕組みをどのように作り発展させてきたのか、これからものづくりをしていくアカデミーの学生にとって刺激ある話が聞けました。
ロゴマークに込めた熱い想い
話の出発地点は、和えるのロゴマークから。2つの大きな丸。赤の丸と七宝柄の丸。それが少しずれて配置されています。これは日本の伝統(日の丸)と現代の価値観(七宝柄)を「和える」様を表しているそうです。かつ現代の価値観に伝統的な和柄である七宝を入れたところがミソで、古くてもいいものはいい、いいものは古くならない、といった思いが込められているそうです。ルイヴィトンの柄が七宝柄からデザインされているように、昔は西洋の人たちも日本のデザインを最先端のデザインとして受け入れていたそうです。そういった日本の伝統を現代の感性で再定義し、再び日本人が日本に誇りを持てるようにしていく、といった熱い思いが込められているのです。
日本で生まれた赤ちゃんを日本のものでお出迎えしたい
そんな和えるの原点は「日本で生まれた赤ちゃんを日本のものでお出迎えしたい」という純粋な気持ちからスタートします。矢島さんの経歴については調べようと思えばいくらでも面白いエピソードが出てきますが、部活で取り組んだ茶華道やTV出演、そして大学時代での伝統技術の職人を訪ね歩いた話など、いくつかピックアップしても「伝統」が一つの軸になっているのが分かります。結局仕事をしようと思ったときに、それまでの見聞きしてきたこと、考えてきたことをそのままビジネスの仕組みに作りこんで行ったことが分かります。
「伝統産業」 x 「赤ちゃん・子ども」
これまでまったく接点がなかったこの2つの業界を「和える」(←混ぜるではない!)ことで新たな市場を開拓していきます。この一見相容れない業界もよくよく調べていくと非常に似通った産業構造をしていることに着目し、この2つを和えることで新たな価値が生まれることを感じていたそうです。
大事なことは、何をどの割合で「和える」といいのか、自分の好きなその和え方を”知っていること”だそうです。これを間違えると違和感を感じたり、矛盾が発生したりします。そしてさらに、切り口は「シンプル」であること。シンプルだけど多くを語れることが大事なのです。
時代の価値観は変わる。数から質へ。モノから感性へ
和えるが順調に成長していることは、時代の流れに逆らわず、うまくその流れをとらえているからともいえます。和えるの誕生は2011年3月16日。東日本大震災のまっただ中です。震災をきっかけに多くの人が「暮らし方」に目を向けるようになりました。
しかし、当たり前じゃなくなったことを、当たり前に戻すことは、非常に時間がかかる作業なんだといいます。だからこそ
・伝わりやすいものづくり
・語りたくなるストーリー
・欲しくなるデザイン
この3点セットは非常に大事だそうです。すべてにおいてこだわりを持ってつくることで、いいものだと感覚で訴え、大事にしたいという思いをもってもらうのです。
この3点セットを実行するうえで、和えるの目指す社会(ビジョン)を幹として、和えるの役割をしっかり定義しています。各地の職人との付き合いかた、取引先との付き合い方はそこからすこしでも矛盾が発生しないスタンスで仕事をしていきます。自らの立ち位置が定まっていないと、なあなあな部分が発生し、それがお客さんである「暮らし手」や和えるにかかわる人たちに違和感を与えていき、和えるというブランドが揺らいでしまいます。
3時間にわたる講義では、これからの時代の経営学、ブランド構築のエッセンスが凝縮されていたのです。
ビジョンと行動力
私自身が矢島さんの話を聞いて感じることは、ビジョンと行動力の両輪が効率よくかみ合っているということです。
矢島さんはまだ20代半ば。彼女だからこそはっきり明確に打ち出せた価値観の転換だったのではないかとも思います。上の世代とは感覚が違うものは違うんだときっぱりといって、新しい価値観に基づくビジネスの展開、会社のあり方、暮らしの提案ができたのではないかと思います。もちろん年齢だけをとってそういうわけではありません。彼女が体験してきたこと、育ってきた環境、そこから育まれた人柄。すべてにおいてそれが表れています。
思い描く「夢」と「目標」。「夢」を見ることは自由で、だれでも見ることができます。しかし、それを「目標」と定めたときに、自分自身に責任を負い、実行に移していく行動力。
多くの人が「夢」と「目標」をごっちゃに考え、さらに伴わなければならない行動ができず、頭で考えるだけで堂々巡りをしてしまいます。「半歩先行く経営」のために行動をいかに伴わせながら進んでいくか、矢島さんの言葉からはその実践者としての重みが伝わってきました。
授業後は、学生の手料理でのおもてなし交流会にも参加していただき、夜遅くまで語りあいました。その時間を通して、より深く矢島さんの人柄や考え方に触れることができました。このブログですべてを紹介することはできないのが残念です。
矢島里佳さん、貴重なお話ありがとうございました。
この「ものづくりと仕組みづくりゼミ」のように、ものづくり講座では、これまでのものづくりのあり方と、これからのあり方を両方学ぶカリキュラムで構成されています。古くも新しくも先人たちの知恵を学ぶことで、よりよい未来を築いていく近道を発見することになると思います。
(文責:ものづくり教員 和田賢治)