突然ですがクイズです。
「和紙がユネスコ無形文化遺産に登録」というニュース、お聞きになった方も多いと思いますが、登録されたのはどんな紙でしょうか?
このクイズにきちんと答えられる人は、極めて少ないと思います。森林文化アカデミーはこの紙が作られている美濃市にあります。そこで和紙の現状と課題を、ものづくり講座の教員と学生が学びに出かけました。
美濃和紙の里会館 船戸友数館長に解説していただく |
まず無形文化遺産に登録されたのは、美濃の紙だけではありません。岐阜県の「本美濃紙」、島根県の「石州半紙」、埼玉県の「細川紙」の3つです。さらに、登録されたのはこれらの和紙(モノ)ではなく、伝統的な手漉き和紙の制作技術です。
こうした技術が世界的に評価されたこと自体はとても嬉しいことですが、現場で職人さんから話を聞くと、厳しい課題が浮かび上がってきます。
ひとつは原料。
無形文化遺産の紙は、国内産のコウゾのみを使います。本美濃紙では、最高級とされる那須楮(名称は那須ですが茨城県で生産)を使っているのですが、生産者が70〜80代で、今後10年以内に生産量が激減すると予想されるのです。
そのため若手職人の中には、自らコウゾを育て始めた人たちがいます。しかし高品質の紙をつくるためには夏の間、コウゾの幹から出てくる脇芽を絶えず取り除かなければなりません。紙漉きだけでも大変な作業なのに、膨大な手間がかかります。
美濃の手漉き和紙職人が自ら育てたコウゾ |
手漉き和紙工房「コルソヤード」の澤木健司さん |
もうひとつは道具。
紙漉きには「簀(す)」という竹製の道具を使いますが、「本美濃紙」は竹ひごの継ぎ目が紙に写らないよう工夫された「そぎつけ」の簀を使うことが条件なのです。写真上が普通の簀、下がそぎつけの簀。竹ひごの太さはなんと0.5mm以下です。
上・通常の簀、下・そぎつけの簀 |
1本1本を斜めにそいで継いであるのが分かるでしょうか。1枚の簀を作るのに2000〜3000本もの竹ひごをそがなければなりません。実は、これができる人がいないのです。というより、それだけの手間をかけられる人がいないと言った方が正しいかも知れません。
美濃に現存するそぎつけの簀はわずか10本ほど。職人たちはそれを修理しながら使っているのが現状です。使えなくなってしまえば、もう本美濃紙は作れません。
そぎつけ |
美濃市で作られる和紙は「本美濃紙」だけではありません。他にもさまざまな手漉き和紙があり、機械漉きの和紙もあります。それらすべてを合わせて「美濃和紙」なのです。機械漉きの会社の方からは、これから原料の課題は手漉きと機械漉きの生産者が共同で取り組んでいくこともできるのでは、との心強い声もありました。
丸重製紙企業組合 専務理事・辻晃一さん |
こうした課題を共有し、美濃の紙づくりを支えていくため、ネットワークづくりを始めています。
岐阜県庁の地域産業課、美濃市役所の産業課、美濃和紙の里会館、岐阜県産業技術センター紙業部、岐阜県森林研究所、そして森林文化アカデミー。まずは関係する公共団体のメンバーが集まり、美濃市で品質の高いコウゾを育てる研究や、一般の人に美濃和紙に関心を持ってもらう講座などを協力して取り組んでいこうと話をしました。森林文化アカデミーも、学生の実習などで関われそうです。
これから更に、地元のコウゾ生産者、手漉き職人さん、機械漉きの会社の方たちにも輪を広げていきたいと思います。
まずは現状を知り、いろんな人とつながり、みんなで支える「コウゾ・プロジェクト」へ、これからがんばります。